風営法改正:届出確認書

 昨年11月の風営法風俗営業等の規制および業務の適正化等に関する法律―「風適法」の方が正式な略語のようですが)改正で、「届出確認書」の仕組みが創設されていたことをジュリスト1306号で初めて知りました。(改正法  同概要
 

 同法では性風俗関連特殊営業について届出制をとっていますが、27条に

4  公安委員会は、第一項又は第二項の届出書(同項の届出書にあつては、店舗型性風俗特殊営業を廃止した場合におけるものを除く。)の提出があつたとき
は、その旨を記載した書面を当該届出書を提出した者に交付しなければならない。ただし、当該届出書に係る営業所が第二十八条第一項の規定又は同条第二項の
規定に基づく条例の規定により店舗型性風俗特殊営業を営んではならないこととされる区域又は地域にあるときは、この限りでない。


5  店舗型性風俗特殊営業を営む者は、前項の規定により交付された書面を営業所に備え付けるとともに、関係者から請求があつたときは、これを提示しなければならない。

という項が付け加えられて、届出確認書の備え付け・請求に応じた提示義務が課されています。これによる「広告宣伝業者や客といった関係者が、届出の有無を確認し、無届業者を排除できる仕組み」(ジュリスト1306号鈴木論文)の創設が立法趣旨のようです。ここで「広告宣伝業者」があげられていることからも推察されるように、無届業者の広告宣伝を排除するためのツールとしてこの届出確認書が機能することも予定されているようです。
 
 これまで許可制については、許可証の掲示(←→提示)義務を課している例が少なくありませんでした(こういった仕組みを分析している業績が直ちには思いつかないので、ご存知の方がいらっしゃったらご教示お願いします)風営法自体、風俗営業(許可制)については6条でそのような義務を課していますし、質屋営業法10条、古物営業法12条(標識)もあります。警察関係に多いのはおそらく偶然ではないでしょう。なお、薬事法施行規則3条は、薬局について許可証掲示義務を課していますが、掲示義務が新たな義務だとすると、明示の委任なくこのような義務を規則で課してよいものかどうか議論の余地がありうるように思います。食品衛生法でも、兵庫県の「食品衛生に関する基準及び営業の手続等を定める規則」16条は、営業許可証掲示義務を課しています。
 

 さてその上で、今回改正の「届出確認書」は、以下二点で注目されるのではないでしょうか。

 (1)届出制でありながら、それに対して「届出確認書」を交付する以上、この確認書は「応答」=処分と解釈される余地があります。食品衛生法違反通知に処分性を認めた最判2004年4月26日との関係でも興味深いですが、(i)たとえば仮に禁止区域(28条)で届出がなされた場合、「違反通知」に相当するような書面が交付されるとは考えがたいこと(ii)そもそも現実に訴訟が起きることは考えづらいように思われることで、実際上このようなことが問題になることはないかもしれません。

 (2)とはいえこの改正で、性風俗関連特殊営業の届出制は一歩許可制に近づいたということも可能でしょう。そもそも同法が風俗営業について許可制、性風俗関連特殊営業について届出制をとっているというのは、「許可制の方が厳しい規制」という通念に反するものがあって、興味深い仕組みです(私も授業でこの点にしばしば触れてきました)。その理由としては、(i)性風俗関連特殊営業について許可基準が作りにくいこと(ii)許可が「公認」するような印象を与え、どうもうまくないことが指摘されていますが渡辺治・法学セミナー1984年12月号、雄川/成田/鈴木/関根・自治研究60巻11号)、「違法な無届業者の広告宣伝が氾濫し、客が違法業者と知らないまま、これを利用していること」を問題視して(鈴木・前掲論文)、客に届出確認書提示請求権を認めるというのは、「公認」の一歩手前でぎりぎり踏みとどまっている印象です(もっとも鈴木論文は、引用部に続き、違法業者の「不当な利益」を問題にし、「客の保護」を語っているわけではありません)

 
ちなみに「届出制+掲示義務」の組み合わせについて検索してみたら、実は結構ありました。徳島県動物の愛護及び管理に関する条例29条は、動物愛護管理法(2005年改正前のもの)8条の届出制について、条例で届出済証を発行することとし、業者に掲示義務を課しています。自主条例+規則の組み合わせでは、新潟市屋外広告物条例22条および同施行規則16条6項(屋外広告業届出)があります。

 木佐先生も指摘しておられましたが、伝統的な行政法ドグマーティクですっきりわりきれいない法規定は、さがせばさがすほどたくさんあるものですね。現実の必要に対処しようとする実務の苦労から生み出されるものなのかな、と推測しています。これらを理論化していって、一方では応援したり一方では歯止めをかけたりすることが、研究者のひとつの任務なのでしょう。