スイスの都市計画

「スイスのニュースと情報」で、興味深い記事を見ました。

 タイトルは「最悪のスイスの都市計画」と幾分扇情的ですが、内容は、『スイスの都市の肖像』Die Schweiz – Ein städtebauliches Portrait という本の紹介。紹介記事を読む限り、都市計画における狭域自治体と広域計画の関係を考えさせられる上で非常に興味深いものです。私はスイスのことは全然知識がないので、実情はわからないのですが....

「スイスには2750の地方自治体があるが、それぞれ自治性が強く、独自の都市計画を貫いている。しかも、その計画に個性があるわけでもなく、連邦政府助成金自治体が目指すのは、どこもかしこも、単に大きな都市になろうという考えなのだ。」

連邦政府より州、そして州より自治体のほうが力が強いスイス。市や村など自治体の権力はあらゆる分野に及んでいる。自治体ごとに都市計画、道路計画、税
制、教育制度が決められる。特に都市計画となると自治体の方が州より決定権が強い。これでは、都市の発展を阻むこともあれば、アルプスの景観を壊してしま
うことさえあると調査は訴えている。」


連邦制が景観を壊している代表的な例が、インターラーケンの近くにあるブリエンツ湖だ。都市計画の専門家が「入植の混乱」と名づける状態が起こっていて、
湖が年毎にセメントで埋められていく。それぞれの自治体が住宅地域を拡大するような計画を推し進め、しかも、それぞれの権利が平等に認められていることが
景観を悪化させた原因と調査は指摘する。」

「同書は、自治体や州の境を越え、スイスを以下のタイプに分類している。
1.アルプス(スイスの象徴である地域だが野放しで「休閑地」のレベルに落ちてしまった地域) 2.ベルン市、ルツェルン市、ティチーノ州(都市とその周辺地域) 3.グロ・デ・ヴォー地方/ヴォー州、アッペンツェル地方、ナップ周辺/ベルン州ルツェルン州の間(閑静地域) 4.サンモリッツとツェルマット(アルプス・リゾート地域).......以上の地域の性格を尊重した都市計画が必要だと調査は指摘する。例えば3の閑静地域は、核となる中心地をつくり、その周りに農家の集落があるような都市計画を進め、決して大都市化を目指さないことだと提唱している」

そして、目を引いたのが、次のような部分でした。

「いろいろな性格を持った都市の集合がスイスの特徴だと調査は言う。たとえば、昼間は金融都市としてお金が地球を一周するような取引が行われる大都市でも、夜になると自治体レベルの政治集会が行われる。これがスイスの都市の実像である。」

最初この部分を読んだとき、「問題は、住民の自治に対する無関心から来るわけではない」と著者はとらえているのかな、と理解しました。だとすれば、上のような問題に対して、住民自治の徹底が解決策にならない、という含意を含むことになります。

ただ、再度考えてみて、「いろいろな性格を持った都市の集合がスイスの特徴」という表現には、実態描写ではなく規範的な含意があるのかもしれないとも思えてきました。この点は同書に実際に当たってみる必要がありそうです。