鞆の浦世界遺産訴訟

朝日新聞2007.4.25

 万葉集にうたわれた景勝地で江戸期の港の風情が色濃く残る広島県福山市の「鞆の浦」で、県と市が進める埋め立て架橋計画をめぐり、地元住民ら163人が24日、県を相手に、知事が埋め立て免許を県と市に交付しないよう求める差し止め訴訟を広島地裁に起こした。計画は貴重な歴史的・文化的・自然的価値を有する鞆の浦を破壊し、国土の適正利用などを求めた公有水面埋立法に反する、と訴えている。

 計画は交通渋滞の解消などを目的に83年に策定。港の西側約2ヘクタールを埋めて長さ約180メートルの橋を架ける。訴状によると、計画は環境や景観を致命的に破壊し、世界遺産登録の機会を失わせるうえ、観光やまちづくりに重大な損害を与えると指摘している。

 鞆の浦については、ユネスコの諮問機関で世界遺産の調査などを担当する国際記念物遺跡会議が05年に架橋の見直しを迫る決議を採択。映画監督の大林宣彦さんら文化人・学者も訴訟を支援している。

 一方、行政側は埋め立て免許を申請する構えで、藤田雄山知事と羽田皓・福山市長は「大多数の住民が計画の実現を望んでいる」との談話を出し、計画推進の考えを改めて示した。
 
 福山市鞆の浦の埋め立て・架橋計画が24日、ついに司法の場に持ち込まれた。計画策定から23年余り。万葉以来の有名な景勝地を揺るがせてきたまちづくり論争は、行政による埋め立て免許申請を目前に控えて、新たな局面を迎えた。

 (略)

 ●「文化度問われる」 弁護団

 「世界遺産の価値があるとされる景観を破壊する四半世紀も前の計画が、いまだに生きているとは驚きだ」。水野武夫団長は提訴後の会見で厳しく指摘した。

 弁護団には、兵庫県西宮市の甲子園浜埋め立て公害訴訟などを手がけた水野団長をはじめ、東京都国立市の高層マンション規制を巡る訴訟に携わった日置雅晴弁護士ら、環境や景観の問題に詳しい8人が加わっている。

 水野団長は「鞆の計画は、瀬戸内海の環境保全を定めた特別措置法(瀬戸内法)や公有水面埋立法が求める埋め立て要件を何一つ満たしていない」と指摘。ユネスコの諮問機関で世界遺産の調査などを担当する国際記念物遺跡会議が3度も保全を勧告したことにもふれ、「人類全体の文化遺産を守るという点で従来の景観訴訟とは違う。日本の文化度が問われる裁判だ」と強調した。

 上智大学法科大学院准教授(環境法)でもある越智敏裕弁護士も「行政がトンネル案と埋め立て案を正しく評価検討したのか疑問。埋め立てによる景観利益の損害の重大性を主張する。裁判官にも現地を見てもらい、証人らにかけがえのない鞆の価値を訴えてもらう」と話した。

この訴訟については、ここで訴状要旨・訴状が読めます。

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