国立マンション国賠控訴審

朝日新聞2005年12月19日「国立マンション条例訴訟、市の賠償額を16分の1に減額」

 東京都国立市に高層マンション建設計画が浮上した後、市がその区域の建物を高さ20メートル以下に規制した条例は無効だとして、建築主の明和地所(東京)が、市などを相手に損害賠償などを求めた訴訟の控訴審判決が19日、東京高裁であった。根本真裁判長は、請求通り市に4億円の賠償を命じた一審・東京地裁判決を変更。「市の営業妨害があった」と認めたが、賠償額は一審の16分の1に減らし、市に2500万円の支払いを命じた。
 高裁は「歴史的にも景観を重視する地区であり、この条例がなくても後で同様の規制ができる可能性が高い。事業者はこうしたリスクを甘受すべきだ」と述べ、条例制定自体は不法行為にあたらないとした。
 ただ、(1)住民に建設計画を話し、反対運動が起きた(2)都知事にマンションへの電気、ガスの供給を留保するよう働きかけた――などの市長の一連の行為にも言及。「全体的に観察すれば営業妨害にあたる」と市の不法行為を認定した。
 損害額について、一審が不動産鑑定士の鑑定などをもとに3億5000万円としたのに対し、高裁は「市の行為で売れ残った分もあるとみられるが、具体的な損害額は確定できない」として裁量で1500万円にとどめた。
 市議会で市長が「違法建築だ」と発言したことで明和側の信用が傷ついたかどうかも問題になった。高裁は「相当多数の者が大学通りの景観と比べてマンションに違和感を持つことは簡単に想像できるはず。明和側のいささか強引ともいえる営業方針への反発も信用低下に寄与している」と指摘。この分の損害額を、一審の5000万円から1000万円に減額した。
 条例の無効確認請求については「条例が実際に適用された時点で争えばよく、訴えは不適法」として一審同様退けた。

Yomiuri Online 2005.12.19「着工後制定の国立市条例は合法、業者への賠償は減額」

Yomiuri Online 2005.12.20[「国立市条例制定は違法といえぬ」業者への賠償は減額」 

東京都国立市の高層マンション(14階建て、高さ約44メートル)を巡り、建築主の「明和地所」(渋谷区)が同市などに、高さを20メートル以下に制限した条例の無効確認と4億円の賠償などを求めた訴訟の控訴審判決が19日、東京高裁であった。
 根本真裁判長は「建設阻止のための一連の行為は営業妨害だが、条例制定自体を違法とはできない」と述べ、市に4億円の賠償を命じた1審・東京地裁判決を変更し、賠償額を2500万円に減額した。無効確認請求は却下した。
 マンションは同市内の通称「大学通り」沿いにある。明和地所が2000年1月に着工。同市は2月、建物の高さを20メートル以下に制限する条例を施行した。

 判決は、市長が市議会で「違反建築物」と発言したり、都に20メートルを超える部分への水道やガスなどの供給を認めないよう働きかけたりした行為を、「地方自治体に要請される中立性を逸脱している」と判断。売れ残りで生じた損害や、明和地所の信用を低下させたことについて賠償を命じた。
 ただ、「問題のマンションは、現地の景観に照らして違和感があり、同社の強引とも受け取れる営業方針も、信用下落に影響している」などと指摘し、賠償額を減額した。 
 1審判決が条例制定を違法としたのに対し、高裁判決は「歴史的に景観への配慮が求められていた地域で、今回、条例が制定されていなくても、その後に同様の規制がされていたと考えられる」とし、違法性を認めなかった。
 同マンションを巡っては、住民が明和地所に20メートルを超える部分の撤去を求めた訴訟があり、1審は撤去を命じたが、2審で住民側が逆転敗訴し、上告中。

その後の読売のフォローアップ記事です。フォローアップも含め、読売新聞は的確に問題点をまとめていると思いますが、惜しまれるのは、「着工」後という表記です。マンションの「着工」(厳密に言えば、「現に建築工事中」−私見では、この二つは時点が異なりうると考えています)と条例の施行の前後関係は、この事件をめぐる訴訟で重要な争点になっています。施行時点で「現に建築工事中」であれば、既存不適格としての保護を受けられるからです。この事件では、条例施行時点で、「根切り」「山止め」とよばれる工事が行われていましたが、それが「現に建築工事中」に当たるかどうかは、微妙な問題です。また、いずれにせよ、「着工後制定」「1月着工」という表記では、「着工されてからやおら議会が議論を始めた」という誤解を与えかねないことを危惧します。

(追記)
「着工後」という表記について、読売新聞の読者室に電話とメールで一応ご連絡申し上げたところ、30分もたたないうちに見出しをご訂正いただいたようです。迅速な対応に正直驚きました。この問題に関しては、読売新聞は、事件の当初より充実した報道を行っておられましたので、深い認識を持っておられたのでしょう。

また、必ずしも適切といえない旧見出しはオンライン上だけのもので、新聞紙上の見出しでは、当初から訂正後のオンライン記事と同様の表現がなされていたそうです。本ブログで「読売新聞2005年12月19日」としていたのは、この意味で誤りでした。

さて判決本体ですが、判決文をまだ入手していませんが、上記フォローアップ記事にありますように、賠償額の減額以上に、条例自体が直ちに違法ではない、としたことはひとまず評価できるでしょう。また、損害額から、既存不適格それ自体による価値下落を差し引いたらしいことも注目です。藤山裁判長による1審の判旨は、ダウンゾーニング一般を不可能にするような読み方も可能なもので、自治体のまちづくりにとって大きな打撃になりうるものでした。

その上で、「条例自体は適法だが、一連の行為として違法」(上記の読売のまとめは適切だと思います)という論旨は、最判1978.5.26類似の、行政過程全体を考察するという方法によるものなのでしょう。「過程全体」という評価の仕方は、基準があいまいになりうるだけに、上のフォローアップ記事に見られるように、具体的事実関係を慎重に検討した上での評価が必要でしょう。

また、当該マンションが「違法建築」だという発言が賠償の理由になっているとすれば、これも、自治体の中立性をどう考えるかについて、慎重な検討が必要です。少なくとも自治体の自主的に法解釈を行う権限を阻害しないような方向での議論が望まれるでしょう。

ちなみに
>条例の無効確認請求については「条例が実際に適用された時点で争えばよく、訴えは不適法」として
>一審同様退けた。


という判旨が、2004年行訴法改正後にも維持されているのは、いかなる理由付けがなされているか注目されるところです。

国立マンション事件裁判例リンク