小型なんでもレコーダー<オモイデ>

のりを続けさせてください。上の本には、同じ北川幸比古氏の『こどもセールスマン1号』(初出1970年)も併録されています。こちらでは「人間テスト」を受けてこどもセールスマンになった小学生の星野星助君が、いろいろな新製品を売り歩きます。その中の一つがタイトルのものです。

これは、今までのビデオレコーダーとはまったくちがいます。
社長のせつめいによると、オモイデは手ちょうぐらいの大きさで、しゃべったりうたったりした声や、なにかしたり見たりしたことをなんでもぜんぶきろくします。
 ふつうのレコーダーだと、カセットテープがいっぱいになるととりかえるので、きろくがとぎれます。しかしオモイデは、テープをつかわず、でんぱで会社の大型きおくそうちにおくり、そこできおくさせておくので、どんなにながいきろくでもできます。
 じっさいオモイデには、スイッチさえついていませんでした。いつもでんぱをだし、きろくのしつづけです。
 きろくをとりだしたいときは、つかう人が会社にしんごうをおくると、コンピューターがちゅうもんどおりよりわけ、立体カラーテレビの画面と音にして、おくりかえしてよこします。
 「美しい思い出を」とちゅうもんすれば、いやなことははぶいて、たのしくまとめてくれるのです。
(略)
 おもったとおり、オモイデは、どかどかうれだしました。学校へもっていって、オモイデにぜんぶおぼえさせるべんきょうがはやり、こどもたちまで、じぶんようのオモイデをもつようになりました。
(大好きな先生がオモイデを使わないので)
 スパイみたいで、きらいなら、もってあるかなければいい。会社の大型きおくそうちから、だれかが、かってにきろくをとりだしてしまうのがしんぱいなら、ひみつにしたいときはオモイデをもっていないようにすればよい。星助くんは、そうかんがえて、川井先生にはなしました。

 『宇平君』『こどもセールスマン』両作品とも、いろいろな意味で時代を感じさせる作品ですが、「今の時代にふさわしい本」という評価に共感します(ただし、こちらこちらに同時代の批判もあります)。ただ、現在の目から見ると、後者で登場する新製品の方によりアクチュアリティがあるようにも思います。製品を開発するのが前者では善意の発明家であり、後者では資本主義的大企業であることとそれは無関係ではないのかもしれません。