西宮市市民参画協働推進条例:「提言」と「素案」

以前のエントリで触れた西宮市「市民参画と協働の推進に関する条例」ですが、既に市は、昨年12月条例素案を公表し、パブリックコメント手続も既に1月下旬に終了しています。

市の機関によるこの素案は、市民からの公募委員によって組織された策定委員会によって検討され、昨年11月にまとめられた「提言」 を受けたものとされていますが、素案と提言との間にはかなり多くの相違点があります。

以下、自分のメモをかねてそれら相違点をリストアップしますが、技術的事項に関するものを除き、個人的意見を申し述べることはここでは差し控えたいと思います(自分自身の意見は、既にパブリックコメントの形で市に提出しました)。

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1.<「市民」の定義>

「提言」:「まちづくりにできるだけ多くの人々に関わっていただくため、西宮市を良くしたいと思っている人や団体であれば、市内に居住している人に限らず、広く市民と捉えます。」とした上で、「個々の市民参画手続等については手続に応じて参画できる人の範囲を定めます。」としています。

「素案」:特段の定義を置いていません。

(なお素案も、例えばパブリックコメントを西宮市住民に限定するような趣旨ではないと思われますので、もし一般的な定義を置かないのであれば、個々の市民参画手続全てについて、参画可能な範囲を明確に定めるべきでしょう)

<?目的・基本原則>
「提言」:「市民が平等に市政へ参画する権利を持つということをしっかりと定めるべきです。」
「素案」:市民の権利については触れられていません。

<??市民の役割・市の機関の役割>
「提言」:
(市民の役割)「市民参画と協働によるまちづくりに自主的かつ積極的に関わっていくよう努めるものとします。市民参画や協働にあたっては、市民は、個人的な利益の実現ではなく、市民全体の利益を考慮し、自らの意見と行動に責任を持つべきです」
(市の役割)
「 市は、市民の市政への参画の機会を確保し、市民の声を市政に反映すべきです。
「市は、市民が参画と協働によるまちづくりを行うために、必要な環境を整備するものとします」

「素案」:
(市民の役割)「市民全体の利益を考慮し、自らの意見と行動に責任を持つ」
(市の機関の役割)「市政への参画の機会を確保するよう努める」

「素案」では、市民の役割については義務的な表現が、市の機関の役割については努力義務の表現が用いられています。

<?市民参画手続の実施方法>

(1)(市民参画手続の実施時期)
「提言」:市民参画手続の実施時期について、「政策等の立案にあたって、できるかぎり早い段階から行うべき」という原則を掲げています。
「素案」:時期に関する原則は盛り込まれていません。

(2)(パブリック・コメント
「提言」:パブリックコメントを最低限実施されるべき参画手法としています
「素案」:この点は盛り込まれていません。規則、審査基準、処分基準、行政指導指針(参照、行政手続法46条)についても特に言及はありません。

(4)(2つ以上の参画手法)
「提言」:「?特に市民への影響が大きい政策等や、広い範囲の市民に影響が及ぶ政策等にあっては、2つ以上の参画手法が実施されるべきです。?その際、そのうちの1つとして、意見提出手続(パブリックコメント手続)は必ず行う。」としています。
「素案」:この点は特に盛り込まれていません。

<市民政策提案手続>
(1)「提言」:「市民参画協働推進評価委員会」の役割について定めています。
「素案」:この点は盛り込まれていません。

(2)「提言」:公開のプレゼンテーション手続を定めています。
「素案」:この点は盛り込まれていません。

<審議会等>
「提言」:「委員を選考する基準を公表します。委員を公募する際の手続、選考の基準、選考の方法等は、規則で定めます。団体からの推薦を受ける場合は、その団体に推薦を依頼する理由を公表します。」としています。
「素案」:この点は盛り込まれていません。

<?住民投票
「提言」:いわゆる常設型住民投票制度の導入を求めた上で、「市長及び市議会に住民投票実施の請求権を認めるべきかについては検討課題です」としています。
「素案」:市長提案の条例によって住民投票を実施する仕組みを予定しています。

<?市民協働事業提案制度>
「提言」:要件・審査手続等について提案しています
「素案」:対象事業、提案者の要件、提案の手続等について、別に規則で定めるとされていますが、詳細はわかりません。

<?コミュニティ活動の推進>
「提言」:ラウンドテーブルの設置を提案しています
「素案」:この点については触れられていません。

<?市長が講ずべき措置>
(1)実施体制について
(a)「提言」:推進計画・年次報告・年間予定表等を提案しています。
「素案」:この点は盛り込まれていません
(b)「提言」:参画と協働担当部署の設置を提案しています。
「素案」:この点は盛り込まれていません。

(2)推進評価委員会
「提言」:モニタリングのために、「市民参画協働推進評価委員会」を提案しています。
「素案」:「市民参画と協働の取組状況等を、市民、学識経験者等、市の機関以外の観点から検証するよう努める」とのみ述べています。

<?その他>
「提言」:「条例及び条例に基づいて実施される市民参画協働の取り組みについては、5年ごとに見直しを行うものとします。見直しにあたっては、市民参画協働推進評価委員会の意見を聞くとともに広く市民の意見を反映させるよう努めるものとします」としています。。
「素案」:「この条例は、社会情勢の変化等を見ながら、適宜見直しを行うものとします」としています。
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一般論として、条例案は市の執行機関、最終的には市長の判断と責任において策定された上で議会に提案されるべきものであり、提言に市長が拘束されるものではないことはいうまでもないでしょう。

しかし、市民公募委員による策定委員会方式によって作られた「提言」と市の機関が策定した「素案」との間にこれだけ大きい相違があるわけですから、たとえば対照表を作るなどの形(まさに上のリストのような形)であらかじめその相違点を明確にし、提言を採用しなかった点についてはその理由を明確にした上で、パブリックコメントを行うことが望ましかったと思います。

パブリックコメントで寄せられた意見の概要とそれに対する市の考え方は、近々公表されるでしょうが、これらの相違点をふまえた形で、市の考え方が明確になることを期待しています。