学習指導要領:パブコメと「タイムラグ」

以前のエントリで触れた、新学習指導要領に対するパブリック・コメントの問題ですが、各教職員組合のサイトで、告示日に出された次のような見解を見つけました(告示後の全日本教職員連盟の見解は、ネット上では見つけられませんでした)。

日本教職員組合 

本日、文部科学省は、幼稚園教育要領および小学校・中学校学習指導要領を告示した。「改訂案」に対するパブリックコメントの締め切りから僅か12日での告示であり、さらに「総則」を含むいくつかの部分において内容が付加されるという「修正」が入り、極めて異例の事態であると言わざるを得ない。
 文部科学省は、「総則」の「道徳教育」に「我が国と郷土を愛し」という文言を付加した。その理由を「パブリックコメントで多くの意見が寄せられたから」と説明している。寄せられたすべての意見を示すことなく、「修正」理由を明らかにしないまま、告示で盛り込むという手法は、「教育基本法政府法案」の作成過程を想起させるものである。また、小学校・国語では、「伝説」が「神話・伝承」と改められるなど、国による一方的な伝統・文化の強調が見られる。

全日本教職員組合

文部科学省は、2月15日の案の提示の段階から、1カ月間のパブリックコメントを行ってきました。ところが、そのパブリックコメントの結果については、まったく明らかにしないまま、上記のような重大な変更を行ったのです。新聞報道では、寄せられたパブリックコメントは、5679件とされており、教職員をはじめ多くの国民の関心が寄せられたことが示されています。しかし、本日時点でも、まだその結果は公表されておらず、案からの変更は、まったくの密室で行われたとしか考えられません。

結果公示案件詳細によると、公示日は3月28日となっていますから、おそらくは上の声明が出された後、同日中に公示されたと言うことでしょう。もちろん結果の公示では、要約とグルーピングされてはいますが、意見の内容は公表されています。

 もともと原案に批判的であり、パブコメを経て更に望ましくない方向に変更されたと認識しているこれら団体が、パブコメの内容をあらかじめ明らかにしないまま修正されたことに不満を抱くことは十分理解できます。

ただし、このような運用は、現行行政手続法それ自体が予定するものです。

行政手続法43条1項は、

命令等制定機関は、意見公募手続を実施して命令等を定めた場合には、当該命令等の公布(公布をしないものにあっては、公にする行為。第五項において同じ。)と同時期に、次に掲げる事項を公示しなければならない。
一  命令等の題名
二  命令等の案の公示の日
三  提出意見(提出意見がなかった場合にあっては、その旨)
四  提出意見を考慮した結果(意見公募手続を実施した命令等の案と定めた命令等との差異を含む。)及びその理由

とし、命令等の公示とパブコメに寄せられた意見・行政機関の考慮結果が「同時期」になされるべきものとしています。下記の常岡著も指摘するように、これは閣議決定段階の事務からの変更点です。

職員組合による批判は、パブコメによる国民からの意見を踏まえて更なる議論がなされることを制度上予定「しない」というこの制度のそもそもの特質の評価に関わる重要な問題提起になっていると思います。前エントリでも触れたように、パブコメは所詮「1往復半」のコミュニケーションであり、主に説明責任履行のための制度だという特質をどう考えるべきでしょうか。

<参考資料>
*常岡孝好「パブリック・コメントと参加権

1999年の閣議決定の下では、行政機関は提出された意見に対する「考え方」を取りまとめ公表するが、この公表は意思表示の時点までに行うことになっていた。したがって、閣議決定の下では、「考え方」の公表と、命令等の制定との間にタイムラグが生ずることがあり得た。つまり最終的な意思決定の前に、提出意見に対する考え方が公表されるという実務があった、ところが、改正法案では、こうしたタイムラグが生ずる可能性はほぼ塞がれた。(p76)

*第162回国会参議院総務委員会会議録第16号(2005.6.16) (国会会議録検索システムより)
(下線は引用者) 

藤本祐司君 (略)
 続いて、次の質問なんですが、四十三条の結果の公示についてであります。
 この結果の公示等については、当該命令等の公布と同時期に、そのいろんな意見、パブリックコメントで出された意見についての取りまとめたものも提示するということになっているんですけれども、一つお聞きしたい、二つですね、についてお聞きしたいのは、「同時期」って書いてあるんですけれども、この同時期というのは、本当に同時期って、全く一斉にということは不可能なんだろうと思うんですね。意見をもらいまして、それを結果として取りまとめましたよと。それで、それを反映して、命令等に反映しましたよというのが、これ全く同じ時期というのは、なかなか正直言うと困難じゃないかなというふうに思うんですけれども。
 そういう意味で、この同時期というのはどのぐらいの幅を考えていらっしゃるのかということと、もう一つ、ちょっとこれは昨日、済みません、通告していなかったんですけれども、もし答えられたら教えていただきたいんですが、この同時期というのは閣議決定のときと違っています。閣議決定のときは、パブリックコメントを集めて、それをもらって、その結果というのをまず公表した後に命令を制定するという、タイムラグを意図的に生じているわけなんですね。これ、同時期ではなかったんですけれども。
 そういうことで、わざわざ期間を設けていたんですけれども、そこと今回変わって、全く同時期というのは、ここはもう大きく変わったところなんですが、その変えた理由、要するに、今までだとうまくなかったということなんだろうと思うんですけれども、その辺の何か問題点というのがあって変えたんだと、その理由を教えていただければと思います。

○政府参考人(藤井昭夫君) 第一点は、同時期という言葉の趣旨でございますが、これは特段定量的な、何日以内とか、そういうような基準というものが考えられるものではないかと思っていて、一般的に、ほぼ、ほぼじゃなくて、全く公布の時期と、せいぜい、事務的に若干の遅延がある場合とか若干先立つ場合とか、そういったものは許容されるということだと思いますが、基本的に同時とそんなに違わないというふうに御理解いただければと思います。
 それから、閣議決定と法律制度とのその順番、順番というか、期間を置くことをやめた理由ということでございますが、これもむしろ、前もって公示、結果を公示した後、閣議決定政令等を定めるという、そういう手続を法律上義務付けることの意味が果たしてどれほどあるかということを検討をいたしまして、結局、別に、考慮した上で反映されればいいわけですから、それともう一つは、国民の方々にどういう理由で反映したか反映されなかったかということを分かっていただけるということさえ確保できればいいということで、基本的に、まだ、前もって決めるということの必要性はそれほど高くないと。
 一方、むしろ、できるだけ全体のやっぱり策定手続の期間というものを圧縮するという方が事務負担という観点からはいいわけでございますので、できればそういう期間というものは縮めて、同時期にさしていただいて、全体、この制度が、趣旨に沿って、しかも行政機関の運営にもそんなに大きな支障が生じないというような形で制度設計できればという、言わばそういうバランス感覚と言ってよろしいでしょうか、そういう物の考え方からこういう制度にしているというところでございます。

藤本祐司君 ちょっとよく分からなかったんですけれども。
 要するに、タイムラグというか期間を設けることにそれほどの意味がないというのは分かるんですけれども、じゃ、同時期であるという意味がよく分からないんですけれどもね。同時期でというのを、わざわざ同時期というふうに示しているということは、同時期であることの方がはるかにいいんだという結論があるから同時期というふうに言っているんじゃないかなというふうにしか思えないんですけれども。わざわざ同時期と言っているということは、期間を置くと何か問題があったんじゃないのかなと、あるいは、同時期であることが大きなメリットがあるから同時期ってわざわざ言っているんじゃないかなと思うんですけれども。
 ちょっとそこの辺り、もう一度御説明いただけますか。

○政府参考人(藤井昭夫君) 説明が分かりにくくて恐縮でございます。
 申し上げようとしたのは、今先生タイムラグとおっしゃったですが、実際には、結果を考慮して整理した段階で、大体、案ができている場合、案というか最終的な決定文ができている場合が結構あるわけでございまして、それを、時間を置くということであれば、その期間だけわざわざその決定を遅らせるということをこの制度が義務付けるということになりかねないということであると、全体の政省令等の決定の期間が、その分、余分に見込んで進めるということになるということであれば、元々、恐縮ですが、この政省令等の策定手続というのは、それなりに、マンパワーだけじゃなしに時間を要するわけでございますので、その分、先立ってその準備をしなければいけないというふうな、いろいろな面でやっぱり行政運営上ちょっと負担を掛け過ぎることもあるなということで、できれば簡素化できる期間というものは省略したいという趣旨でございます。

藤本祐司君 要するに、同時期ということは、こういう意見をもらいましたよと、それを考慮してこういう命令を出しますよということを一緒にやるわけなので、意見を出しても、それを、理由は示すとしても、結果としては要するに有無を言わさずこうしますよということにしかならないわけですよね。一回、これ一往復しかしていないわけですので、例えばこういう意見が大勢を占めていますと、だからこういう意見をやるんですけれどもどうですかという手続は途中には一切入らないわけなので、もう有無を言わさず、こうしますよ、意見を考慮してこうしますよということにしかなってないんですが、ちょっとここのところは考え方もあるかもしれないですけれども、私なんかパブリックコメントって考えると、パブリックコメントを出して、それが何件来るか分からないですけれども、それを集めてこういう意見があったと、で、こういうふうにしたいと思うんだけれどもというのが本来は入ればいいんだけれども、なかなか期間が一杯掛かってしまうと問題だということで、そこは短くするということはあるんですけれども、ちょっとこのパブリックコメントの意味というか趣旨というのが、同時期になっちゃうと本当に有無を言わさずぽんと出てしまうのかなという感じがして、逆に言うと、省庁側からすれば、パブリックコメントをやったということで、もうそれでよしとするという形になってしまうんじゃないかという懸念がちょっとあるんですけれども、それについてはどうお考えでしょうか。

○政府参考人(藤井昭夫君) 確かに、御指摘のように、この手続は、意見を踏まえて決定するんだというようなプロセスから考えると、意見を聴いてその上で決定したという、そういう、そのために必要な期間というものを確保しておくということは、それは一つの考え方だろうと思っております。
 ただ、これは繰り返しになるところは省略しますが、加えて、私どもは、やっぱりこの制度の力点は、反映させるということも重要ですが、それ以上にそういう透明性を確保すると。どういう意見があって、どういう考え方でもってこういう最終的な決定文になったかというところの透明性を図って、むしろそれを国民の目で、一般が見られるようにするというところを極めて重要視しております。
 その意味から考えますと、最終的な決定文とその意見とそれに対する行政機関側の理由、こういったものは一体的にむしろ同時期に出した方が国民に理解されやすいというところもあるということも指摘させていただきたいと思います。