メモ:西大阪線延伸訴訟大阪地判

asahi.com 2006.3.30
阪神西大阪線延伸訴訟で住民の請求棄却 大阪地裁 

阪神西九条駅大阪市此花区)と近鉄難波駅(同市中央区)を結ぶ阪神西大阪線延伸事業(3.4キロ)をめぐり、沿線住民ら99人が騒音や振動で生活環境が悪化するなどとして、国土交通相に施工認可の取り消しを求めた行政訴訟の判決が30日、大阪地裁であった。広谷章雄裁判長は「施工者の西大阪高速鉄道は高架に近接する住宅に騒音対策を取る必要があると認識しており、著しい騒音被害が確実に発生する可能性があったとはいえない」と述べ、住民側の請求を棄却した。住民側は控訴する方針。
 訴訟では、「著しい騒音の防止」を定めた国交省の技術基準省令に適合しているか▽振動、電波障害などで住民の生活に支障が出るか――などが主な争点になった。
 判決は、大阪市が02年11月までに計画地域で実施した環境影響評価について検討。内容の合理性を認めた上で「一部の地点で技術基準省令の解釈基準が定める騒音レベルを超えるとしても、今後の騒音対策で基準を満たすことは十分可能」と判断した。また西大阪高速鉄道は認可を受けた当時、騒音対策の必要性を認識していたと指摘。さらに着工後に対策の充実や改善をはかる見込みもあったと認め、「施工を認可した被告の判断は違法ではない」と結論づけた。
 原告側は振動や電波障害などで生活に悪影響が出ると主張していたが、判決は「重大な環境被害が生じることは予測できない」として退けた。
(略)
 <阪神西大阪線延伸事業> 阪神西九条駅近鉄難波駅を結ぶ長さ3.4キロの路線計画(地上部分0.9キロ、地下部分2.5キロ)。区間内に九条、岩崎橋、汐見橋(いずれも仮称)の3駅を設け、1日約8万1千人の利用を見込む。
 大阪府大阪市阪神電鉄などが出資する第三セクター西大阪高速鉄道」が施設を建設し、完成後は阪神電鉄が運営する。国土交通省が03年1月に施工を認可し、同10月に着工。09年春の開業を目指している。

大阪地判2006年3月30日(最高裁ホームページ)

実体的争点はほとんど勉強していませんので、原告適格等に限って気づいたことをメモします。当然ながら、小田急最高裁判決(最判2005.12.7)を強く意識した判断になっています。
 
<原告適格
小田急事件は都市計画事業認可(都市計画法59条2項)の取消訴訟だが、本件は鉄道事業法上の工事施行認可(8条)の取消訴訟。但し、その前提となる鉄道事業許可(4条・5条)の違法性も問題になっている。
 ・処分根拠法規の要件 8条2項→事業基本計画および鉄道営業法1条への適合→委任を受けた技術基準省令
 ・目的を共通にする関係法令→環境基本法大阪市環境影響評価条例平岡先生のHP大阪市都市環境局(例規集にリンク))

→「工事施行認可に関する事業法等の規定は,鉄道事業に伴う騒音等によって,当該事業地の周辺地域に居住する住民に健康又は生活環境の被害が発生することを防止し,もって安全で健康かつ快適な生活を営むことのできる良好な都市の環境を確保することも,その趣旨及び目的とする」

・居住地が事業地に接近するにつれて被害が増大、反復継続すると健康・生活環境に係る著しい被害、上記趣旨目的→個別利益保護性がある

→「鉄道事業地の周辺に居住する住民のうち当該事業に係る工事が施行されることにより騒音等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者は,当該工事施行認可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として,その取消訴訟における原告適格を有する」

「周辺地域」の範囲は、小田急同様、環境影響評価条例の対象地域が考えられている。

ここまでの判断は、小田急を全く踏襲しています。注目に値するのは、以下です。

(1)「さらに,当該事業地の周辺地域内の職場に勤務し,継続して相当の期間当該地域内で過ごす者についても,上記の被害を反復,継続して受けるおそれがあるという点で,同地域内の居住者と変わるところはないから,当該地域に勤務する者についても,居住者と同様の要件で工事施行認可の取消訴訟原告適格を認めるべきである。」
(2)「原告らは,法人である原告らについて,代表者の職場等であることを理由に原告適格があると主張する。しかし,法人である原告らは,騒音等により健康又は生活環境に直接被害を受ける者ではなく,上記を理由に同原告らに原告適格を認めることはできない。

小田急大法廷判決は、「勤務」に関しては特に触れていませんでした。同判決で原告適格を否定された上告人について「勤務地が周辺地域内」という主張がされていたことはうかがえませんので、この点は大法廷判決ではオープンだったと解釈できるでしょう。大阪地判はその点を踏まえ、「勤務する者」まで原告適格を広げたものと思われます。

他方、大阪地判は、「健康又は生活環境」を重視して、原告適格の範囲を自然人に限っています。この点は、財産について個別保護性(あるいは保護範囲性?―桑原・ジュリスト1310号16頁参照)を否定した都市計画開発許可最判(最判1997.1.28)林地開発許可最判(最判2001.3.13)総合設計許可第2最判(最判2002.3.28)の流れに位置するものでしょう。(但し、総合設計許可第1最判(最判2002.1.22)は、防災関係については財産権者にも原告適格を認めています)

(3)「事業法8条2項に基づく工事施行認可の法的効果により,鉄道事業地内,当該鉄道事業と密接な関連を有する道路事業地内及びこれらの隣接地の不動産について,権利等に制限を加える規定は存在せず,これらの不動産の権利者が,本件認可により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者に該当するということはできず,上記権利者に,本件認可の取消訴訟原告適格を認めることはできない。」

 事業地内の地権者の原告適格は、小田急のような都市計画事業認可取消訴訟であれば当然に認められます(小田急の場合は、原告団にそのような地権者は存在せず、関連する付属街路事業認可についてのみ地権者がいた事例でした)。しかし、大阪地判は、都市計画事業認可(土地収用事業認定と同様の効果)と工事施行認可の相違を重視して、上のように判断しているようです。ここでも、財産権に対する環境上の悪影響は、原告適格の根拠にならないという判断が前提とされているのでしょう。

<その他―全くのメモ書きのみ>

・環境影響評価書の判断過程における看過し難い過誤があった場合は、工事施行認可は違法(被告は、「施行認可にあたり評価書の正当性を判断する義務はない」と主張していたが、退けられる)
・他方、「解釈基準の数値を上回る騒音が予測される地点が1か所でもあれば,技術基準省令6条に適合しない」という原告主張も退けられる
・「解釈基準に定められた測定地点よりも鉄道施設に近接した住居等に著しい騒音被害が発生する蓋然性」も考慮事項(被告の主張退けられる)
・「被告は近接・中高層住宅での騒音被害を審査対象とはしていなかったものの,上記被害発生の蓋然性が認められない以上,本件認可で技術基準省令6条適合性を認めた被告の判断に裁量の範囲を逸脱した違法はない。」
都市計画決定の違法は工事施行認可の違法事由にならない。
・鉄道事業許可の違法は後行行為である工事施行認可に承継される。

<追記 同路線について、沿線住民らが、都市計画事業認可の取り消しを求める訴訟を6月13日に提起したそうです。  読売新聞記事 朝日新聞記事>